2016年8月14日日曜日

オバマ氏長女に大麻吸引疑惑も、擁護論が圧倒

 オバマ米大統領の長女、マリアさん(18)がロック・フェスティバルの会場で、大麻らしきものを吸っている動画がインターネット上に流出、物議を醸している。ただ、ネット上では、マリアさんを擁護する声が圧倒。図らずも、世論が大麻容認に大きく傾いていている米社会の現状を示すエピソードとなっている。

動画がネット上に拡散


 今月10日に最初に動画を流したゴシップサイトのレーダー・オンラインが、投稿した人物の話として伝えたところによると、撮影したのは731日。場所は、シカゴ市内の公園で開かれていた、有名な野外フェスティバルの観客席だった。

 動画を見ると、一瞬だが、左手の人差し指と中指の間に挟んだ白くて細い手製の紙巻きたばこのようなものを口にするマリアさんの横顔を、カメラが捉えている。

 投稿者は、「彼女は私から数フィート(1フィートは約30センチ)のところにいて、臭いでそれが大麻だとわかった」とレーダー・オンラインに証言。また、「彼女の隣にいた若い男性が、そのタバコ状のものを彼女に手渡し、彼女は少なくとも1回それを口にし、彼に返した」と詳述し、「彼女の背後にはずっとシークレット・サービスがついていたが、彼女がそれを吸っていたのをシークレット・サービスが見ていたかどうかはわからない」とも語っている。

 現役大統領の娘、しかも名門ハーバード大学への入学が決まっている才媛の“スキャンダル”とあって、映像はあっという間にネット上に拡散。さらには、ニューヨーク・ポストなど大衆紙が相次いで取り上げたほか、海外のメディアも競うように報じた。

 ところが、このニュースに対する米国民の反応は、少なくともネットを見る限り、マリアさんに同情的なものが圧倒的だ。

 ツイッター上では、「マリア・オバマがタバコを吸おうが大麻を吸おうが、どうでもいいこと。ティーンエイジャーらしくさせてあげようよ」「まだティーンエイジャーなんだから、メディアはそっとしておいてあげるべき」「僕は共和党支持者でオバマ大統領は嫌いだけど、マリア・オバマが何をしようが関係ない。彼女には青春を楽しんで欲しい」など、ほとんど擁護論一色だ。

 サンフランシスコ地域の主要紙サンフランシスコ・クロニクルのオンライン版は、「ソーシャル・メディアは、マリア・オバマの行動を容認する声が圧倒的」と報道。オバマ大統領に批判的な保守系の政治ブログ、レッドステートさえも、「マリア・オバマは大統領の娘であるがゆえに、常に監視され、普通のティーンエイジャーのような暮らしができない」と同情論を展開した。

大麻解禁の流れを映す


 大麻吸引疑惑のマリアさんを擁護する論調が圧倒的なのは、米世論が大麻解禁に大きく傾いているためだ。米国では今、18歳以上の成人に対し、タバコと同じように大麻の所持、使用を認める州法が、各地で次々と成立している(Yahoo!ニュース個人「米国、大麻がタバコを逆転へ」)。逆の見方をすれば、今回の件で明らかになったように、大麻に寛容な国民が多いからこそ、大麻の合法化が進んでいるとも言える。


 奇しくも、シカゴのあるイリノイ州では、今回の動画が撮影された日のわずか2日前の7月29日、10グラム以下の大麻の所持は刑事責任を問わないとする法案に知事が署名し、ただちに発効した。

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2016年8月11日木曜日

米国、大麻がタバコを逆転へ

 マリファナ(大麻)の常用者数が、タバコの喫煙者数を数年内に逆転――。米国で、こんな見方が出始めている。

 喫煙に厳しい米国では、タバコに関する規制強化が進み、喫煙者が年々、減少。半面、大麻は、各州で次々と合法化され、常用者の数がうなぎ上りに増えている。有力紙ワシントン・ポストは今週、「(この傾向が続けば)数年内に、大麻がタバコよりも、より普及することになるだろう」と報じた。

カリフォルニアも解禁へ


 米国では、医療目的での大麻の使用は、すでに約半数の州で認められている。しかし、タバコのように嗜好用に吸引することは、これまで非合法だった。

 ところが、コロラド州が2014年、住民投票の結果を踏まえ、全米で初めて嗜好用の大麻の使用を解禁。合法化の動きは瞬く間に広がり、現在は、ワシントン、アラスカ、オレゴンの各州と、首都ワシントンDCでも、嗜好用の使用が認められている。

 今年11月には、全米最大の人口を誇るカリフォルニア、大都市ボストンを抱えるマサチューセッツのほか、メーン、アリゾナ、ネバダの合計5州で、大麻合法化の是非を問う住民投票が、大統領選挙と一緒に実施される。

 最新の世論調査によると、カリフォルニア州では、投票に行くと答えた有権者の60%が大麻の合法化を支持。反対の37%を大きく上回っている。

 連邦法は大麻を禁止しているが、政府は今のところ、各州の動きを静観している。

常習者は3,300万人

 

 ギャラップ社が8日発表した世論調査結果によると、大麻を吸っていると答えた成人の割合は全成人の13%に達し、2013年の7%からほぼ倍増。現在の米国の人口に当てはめると、3,300万人を超える。合法化の流れが強く影響しているとみられている。

 以前にも書いたが、大麻合法化の流れには、3つの大きな要因がある。

 第1は、現状追認。米国の多くの若者にとって、大麻は、大人の仲間入りをするための通過儀礼のようなものだ。非合法でも、現実には、大麻を吸う若者は多い。感覚的には、日本の若者が、未成年でも親の目が届かなくなったらタバコを吸い始めるのと似ている。クリントン元大統領もオバマ大統領も、若いころに大麻を吸ったと告白しているが、ほとんど問題視されなかった。

 第2は、タバコに比べれば健康に害がない言われている点だ。つい最近も、「大麻を長年吸い続けても健康への悪影響はほとんどない」とする、アリゾナ州立大学の研究者らによる研究結果が、医学専門誌に掲載された。依存症に陥る可能性も、タバコより低いと指摘する専門家は多い。

 第3に、大麻の不法所持で検挙されるのが黒人に偏っているという問題がある。黒人団体や人権団体は、大麻を取り締まる法律は人種差別的だと強く非難している。また、大麻の所持が、銃の所持などに比べれば重大事件につながる可能性が低いにもかかわらず、その取り締まりに警察官を動員するのは、税金の無駄遣いとの批判も多い。

タバコ人口は尻すぼみ


 一方、米疾病対策センター(CDC)によると、米国の推定喫煙人口は、2014年現在で、全成人の16.8%にあたる約4,000万人。2005年の20.9%から約4ポイント低下している。米国では、1995年にカリフォルニア州が他州に先駆けて公共スペースでの喫煙禁止を打ち出して以来、喫煙できる場所はどんどん狭まっており、タバコ離れが進んでいる。

 今年に入ってからも、ハワイ州やカリフォルニア州が合法的に喫煙できる年齢を18歳から21歳に引き上げるなど、規制は一段と厳しくなっている。喫煙人口がさらに減少するのは確実だ。


 大麻人口とタバコ人口が数年以内に逆転するとの予想は、かなり的を射ていると見て間違いなさそうだ。

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2016年8月4日木曜日

もしトランプ氏が撤退したら?

 もしドナルド・トランプ候補が、米大統領選挙から撤退したらどうするか?こんな議論が米共和党幹部の間で真剣にかわされ始めていると、米主要メディアが相次いで報じている。

 いまのところ、トランプ氏側から撤退をにおわせるサインは出ていないが、元々その言動が読めず、相次ぐ問題発言で共和党内でも四面楚歌のトランプ氏だけに、この先、何が起きても不思議ではないというわけだ。

 ABCテレビは3日、共和党関係者の話として、「共和党幹部は、ふつうの選挙の年だったら起こり得ないシナリオが起こった場合に備え、その対処法を研究し始めている」と報道。さらに、「もしトランプ氏が選挙戦から降りた場合、どうやって代わりの候補者を立てればよいか、方策を探っている」と伝えている。

 共和党全国委員会のルールには、党大会で正式に指名された候補が何らかの理由で出馬を取りやめた場合の後任選びの手続きが、一通り書かれている。しかし、仮にルールが適用されるような事態になった場合、だれも経験したことがないだけに、混乱は必至だ。

 また、ABCは、党内の専門家の話として、仮にトランプ氏が選挙戦から降りることになった場合、9月の上旬ごろまでに降りないと、後任を選び直し、かつ11月の本選挙で勝てる態勢を整えるのは極めて難しくなるという。

 ロサンゼルス・タイムズ紙も同じく3日、「共和党の幹部らは、トランプ氏が選挙戦から突然撤退を表明した場合の善後策を話し合い始めている」と伝えた。

 共和党のルールでは、党は党大会で選んだ候補者に対し、選挙戦からの撤退を強制できない。これまで、味方であるはずの共和党の政治家を激しく批判し続け、問題発言で有権者の支持率も民主党のヒラリー・クリントン候補に水をあけられているトランプ氏には、できれば自発的に選挙戦から撤退して欲しいというのが、共和党主流派の本音のようだ。

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2016年7月12日火曜日

米電力最大手が画期的な脱原発案

加州、原発ゼロに

 

 福島第1原子力発電所の爆発事故以降、原発大国の米国でも、原発の安全性に対する懸念が強まっている。しかし、原発への依存度を下げると温暖化ガスの排出増加につながるとの理由から、脱原発の動きは鈍い。そうした中、米最大の電力会社が画期的な脱原発案を打ち出し、注目を集めている。
 
この電力会社は、カリフォルニア州中北部地域を基盤とするパシフィック・ガス・アンド・エレクトリック(PG&E)。6月下旬、所有するディアブロキャニオン原発の原子炉2基を、免許の更新時期を迎える2025年までに廃炉にすると発表した。
 
 カリフォルニア州では1950年代以降、計6つの原発が建設されたが、うち4つは1980年代までに閉鎖。残る2つのうち、同州南部のサンオノフレ原発は放射能漏れ事故などをきっかけに住民の間で不安が高まり、2013年に稼働を停止。ディアブロキャニオン原発が唯一現役の原発となっていた。同原発の廃炉により、米最大の人口を抱えるカリフォルニア州は、主要州で初めて原発ゼロの州となる。

 米全体では依然、100基前後の原子炉が稼働中。新設の動きもあり、ディアブロキャニオン原発の廃炉で、米国が一気に脱原発に突き進むわけではない。しかし、米最大の州で米最大の電力会社が脱原発に踏み切った意義は、けっして小さくない。ニューヨーク・タイムズ紙は社説で、「カリフォルニア以外の州や米国以外の国が、温暖化ガスの排出を増やさずに原発の老朽化問題を解決しようとする際の、よい前例となるだろう」とPG&Eの脱原発案を高く評価している。

決め手は州条例 


 ニューヨーク・タイムズ紙などがPG&Eの脱原発案を取り上げるのは、単に電力最大手が脱原発を打ち出したからだけではない。注目すべきは、脱原発の決断にいたる経緯だ。

 PG&Eの決断に最も影響を与えたのは、昨年成立したカリフォルニア州条例だ。同条例は、温暖化ガスの排出量削減のため、電力会社に対し2030年までに総発電量の最低50%を太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーにするよう義務付けた。

 同時に、建物のエネルギー効率を2倍にし、総電力消費量の抑制を目指している。同条例は脱原発を目的としているわけではないが、結果的に、PG&Eが脱原発を決断する決め手となった。

 なぜか。企業として利益を確保しつつ、同時に再生可能エネルギー比率50%以上という目標を達成し維持するには、エネルギーミックス(電源構成)に高い柔軟性が欠かせない。ところが、図体のでかい原発は、いったん稼動停止したらすぐには営業運転を再開できないなど、小回りが利かない。さらには、福島原発のメルトダウン事故以降、日本と同様、米国でも原発の安全対策費が膨らんでいる。原発は、どこであろうと、経済的かつ柔軟なエネルギーミックスに不向きになっているのだ。

 PG&Eのトニー・アーリー社長も、カリフォルニア州の新たなエネルギー政策の下では「原発は必要性がなくなった」と、脱原発決断の理由を明確に述べている。

 条例の制定はもちろん、有権者の意向なしにはあり得ない。その意味では、カリフォルニア州の脱原発は、民主主義が健全に機能した結果とも言える。

反原発団体とも協働 


 注目すべきもうひとつの理由は、PG&Eの脱原発案が、反原発の市民団体などと一緒に練られた点だ。実際、PG&Eは同案を、「地球の友」や「NRDC」など有力環境団体と労組との「共同提案」として発表している。

 参考までに、地球の友は、有力環境団体「シエラ・クラブ」の幹部だった故デヴィッド・ブラウワーが、シエラ・クラブがディアブロキャニオン原発の建設に賛成したことに激怒し、離脱して新たに設立した団体という因縁がある。

 共同提案によると、PG&Eは今後、脱原発と同時に、再生可能エネルギー分野への投資を大幅に増やし、2031年までに総発電量の55%を再生可能エネルギーにする計画。ちなみに、2014年のPG&Eのエネルギーミックスは、再生可能エネルギーが総発電量の27%、原発が同21%。カリフォルニア州は自然環境に恵まれているとは言え、目標の55%を達成するのは容易ではない。

 そのほか、米メディアによると、PG&Eは、原発事業に従事する社員を配置転換するための再教育費用など、従業員対策として3億5000万ドル(約350億円)を計上する計画だ。

 反原発団体との共同提案は、見方を変えれば、脱原発を目指す市民団体の作戦勝ちとも言える。やみくもに反原発を叫ぶのではなく、電力会社が脱原発しやすいような戦略を立て、粘り強く交渉し、実行に移したからだ。カリフォルニア州の脱原発は、ニューヨーク・タイムズ紙が指摘するように、「米国以外の国」にも参考になるに違いない。

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2016年6月26日日曜日

遺伝子組み換え表示を巡る攻防が大詰め

 遺伝子組み換え技術や遺伝子組み換え食品を世界中に輸出してきた米国。その遺伝子組み換え大国で、遺伝子組み換え食品の表示義務化をめぐる産業界と消費者の攻防が、大詰めを迎えている。

 遺伝子組み換え食品は、安全性に対する消費者の懸念が強いことから、日本を含む世界60以上の国で何らかの表示義務を課している。だが、世界最大の遺伝子組み換え大国、米国では、遺伝子組み換え技術で莫大な利益を上げているバイオテクノロジー業界や、食品業界の強い反対で、義務化が見送られてきた。

超党派の合意


 こうした中、米議会上院の農業委員会は6月23日、共和、民主両党が遺伝子組み換え食品の表示義務化で合意し、法案の中身を公表した。同法案は近く、上院本会議での採決を経て、下院に送られる見通しだ。

 同委員会のステイブナウ議員(民主党)は、「遺伝子組み換え食品の表示が、わが国で初めて、全国規模で義務化されることになる」と述べ、その意義を強調すると共に法案の成立に自信を見せた。

 表示義務化で意見の一致を見なかった米議会がここにきて合意に至ったのは、表示義務化に強く反対してきた有力ロビー団体の食品製造業協会(GMA)が、法案への支持を表明したのが大きい。

 GMAのベイリー会長は同日、声明を出し、「消費者、農家、事業者にとって常識ある解決策だ」と農業委員会の合意を歓迎し、「これですべての消費者が、食品や飲料の原料に関し明確で一貫性のある情報を得ることができる」と法案への全面支持を表明した。GMAが後ろ盾となったことで、法案が両院で可決・成立するとの見通しも強まっている。

QRコードで「表示」の可能性も


 あれほど反対していたGMAはなぜ、突然、手のひらを返したのか。

 1番目の理由は、法案の中身がGMAにとって都合のよいものだからだ。表示と言うと、ふつうは食品のパッケージに印刷されたものを言う。しかし同法案によれば、QRコードによる「表示」や電話による「表示」も、表示と認める可能性がある。

 例えばQRコードの場合、消費者がパッケージに印刷されたQRコードを、スマートフォンをかざして読み取り、そこから情報を呼び出して、その食品が遺伝子組み換え原料を使っているかどうかを確認する方法をとる。電話の場合は、パッケージに記載されている通話料無料の電話番号に電話し、確認する案が有力だ。

 つまり消費者は、自分が買おうとする商品が遺伝子組み換え食品なのかどうか、その場ではすぐにわからない。面倒な操作や時間の無駄を嫌い、遺伝子組み換えの有無を確認しない消費者も大勢出てくるとみられる。遺伝子組み換え表示を見た瞬間に消費者が拒否反応を示すことを恐れるGMAは、こうした方法なら、表示することによるマイナスの影響を最小限に抑えられると踏んでいるようだ。

 2番目の理由は、遺伝子組み換え表示を義務付ける全米初の州法が7月1日、バーモント州で施行になることだ。同州法は、パッケージに「遺伝子組み換え技術を使って製造されています」「一部、遺伝子組み換え技術を使って製造されています」などと明記することを義務付けている。違反業者には1ブランドにつき1日当たり最高1000ドルの罰金を科すという厳しい内容。

 実は、上院農業委員会の法案には、このバーモント州の州法も含め、遺伝子組み換え表示に関するいかなる条例も無効にできる条項が含まれている。今後、バーモント州と類似の州法が他の多くの州でも導入されるとみられているだけに、GMAとしては、中身に多少妥協してでも、早急に「より緩い」(AP通信)連邦法を成立させるのが得策と判断したのだ。

サンダース氏も法案成立阻止を約束


 表示義務化を求める消費者団体などは、一斉に、法案の中身を批判している。

 表示義務化運動を進めてきた消費者団体Just Label Itのハーシュバーグ会長は「この法案は、パッと見てすぐにわかる表示を求める消費者の声にこたえていない」との声明を発表し、運動の巻き返しを誓った。

 有力消費者団体のCenter for Food Safetyは、「法案は、バイオテクノロジー業界から多額の献金を受け取っている議員による業界への返礼だ」とし、法案をまとめた議員を名指しで糾弾。さらに、「法案は、米国人の3分の1に相当するスマートフォンを持っていない人たちや、低所得者、高齢者、インターネットにアクセスできない人たちに対する差別だ」と激しく批判し、法案を廃案に追い込む構えだ。

 米大統領選で民主党の候補者指名争いを続けているサンダース上院議員も、「あらゆる手段を使って」法案を阻止すると述べている。


 米国では、食品に対する安全性や、その食品がどんな原料でどう作られているのかという、食品に対する「透明性」を求める消費者の声が急速に強まっている。遺伝子組み換え表示をめぐる攻防も、すんなりと決着がつくかどうかは予断を許さない。

2016年6月13日月曜日

米乱射事件「対岸の火事ではない」


 米南部フロリダ州オーランドの同性愛者が集まるナイトクラブで12日未明(日本時間同日午後)に起きた銃乱射事件。49人の犠牲者を出す米史上最悪の銃乱射事件となったが、「日本にとって、これはけっして対岸の火事ではない」と日本のLGBT当事者は指摘する。
 
 現場に駆け付けた警察官に射殺された容疑者の男は、犯行の直前、過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓っていたとされているが、現地の報道によると、同容疑者はまた、同性愛者に対し強い嫌悪感を示していたという。米メディアの取材に応じた容疑者の父親は、同容疑者が公の場で男性同士がキスをしているのを目撃し怒りだしたことがあると語っており、今回の犯行の動機の一つが、性的マイノリティーを狙ったものであることは間違いなさそうだ。

 今回の銃乱射事件は、米国でも、ISによる対米テロ、あるいは銃規制の問題として大きく報じられているが、現地のLGBTコミュニティーは、自分たちが標的にされたとして大きなショックを受けている。

米ロサンゼルスで毎年開催される「ゲイパレード」
 オーランドの事件と関連性はないとみられているが、同じ12日の早朝、米西海岸のカリフォルニア州サンタモニカでも、多数の武器や弾薬を乗っていた車の中に所持していたとして、男が逮捕された。当日は、近接するロサンゼルスで大規模な同性愛者のパレードが開かれる予定で、警察は男がパレードを襲撃する計画だったかどうか調べている。 

 ロサンゼルスの「ゲイパレード」は、筆者も昔、取材したことがあるが、その時も、すぐそばで同性愛反対者が、警官に監視されながら抗議デモをしていたことを思い出す。

 米国では、昨年6月、連邦最高裁が同性婚を認める判決を言い渡すなど、性的マイノリティーの権利向上にかつてない追い風が吹く一方、今回のような凄惨な事件が起きたり、今年、性的マイノリティーの権利を制限するような州法がノースカロライナ州で成立したりするなど、逆風も吹き始めている。

 こうした米国の状況を、「日本にとっても、けっして対岸の火事ではない」と指摘するのは、LGBTなど性的マイノリティーの権利向上に取り組むNPO法人・虹色ダイバーシティ代表の村木真紀さんだ。

 日本でも、自治体が条例を改正して事実上、同性婚を認めたり、職場でのLGBT差別禁止に取り組む企業が増えたりするなど、性的マイノリティーへの追い風が急速に吹き始めている。しかし、村木さんは、「追い風が強まれば強まるほど、必ず向かい風も吹く」と、米国の状況を踏まえて警戒する。

 一例が、LGBTに関する問題への取り組みを進めようとする企業への匿名の抗議だ。虹色ダイバーシティは、LGBTへの差別的待遇の禁止やLGBTの権利向上に取り組む企業へのサポート事業をしているが、クライアントの企業がLGBTに関する施策を発表すると、その企業に抗議の電話がかかってくることがあると明かす。匿名なので、相手が誰なのかわからない不気味さもあるようだ。

 もちろん、銃規制の厳しい日本では、米国のような銃乱射事件が起きる可能性は極めて低い。しかし、向かい風が強まるという意味では、「日本も人ごとではない状況に入っている」と村木さんは強調する。

2016年6月1日水曜日

米国の遺伝子組み換え市場に異変

遺伝子組み換え大国・米国に異変が起きている。遺伝子組み換え食品の開発や販売を積極的に進めてきた大手食品メーカーが、相次いで「脱・遺伝子組み換え」を表明。7月には、全米初となる遺伝子組み換え食品の義務表示が、バーモント州で始まる。背景にあるのは、食に対する消費者の安全・安心志向の高まりだ。米国から多くの遺伝子組み換え食品を輸入している日本にも影響しそうだ。

ハーシー、ネスレ、ダノン…


米国最大のチョコレートメーカー、ハーシーは5月2日、チョコシロップの新製品「Hersheys Simply 5 Syrup」の発売を発表した。アイスクリームやデザートなどにかけるチョコシロップは、甘い物好きの米国では人気商品。ハーシーが同社の従来のチョコシロップと違う点として強調したのは、非遺伝子組み換え原料のみを使用していることだ。

具体的には、主要原料の砂糖を、サトウキビ由来の砂糖に全面的に切り替える。砂糖には、主にサトウキビ由来の砂糖とビート(甜菜)由来の砂糖の2種類があるが、米国で栽培されているビートは、大半が遺伝子組み換え品種。サトウキビ由来の砂糖だけを使うことで、遺伝子組み換え原料を使っていないことをアピールする。

食品世界大手ネスレも、4月20日、ハーゲンダッツなど同グループが米国内で販売するアイスクリームの原料を大幅に見直すと発表。人工着色料や人工香料などの不使用に加え、遺伝子組み換え原料を今後使わない方針を明らかにした。

同じく食品世界大手ダノンの米国法人も、4月27日、ヨーグルトなど同社の主要乳製品に関し、非遺伝子組み換え飼料で育てた牛の乳のみを原料にすると発表した。

米国は世界最大の遺伝子組み換え大国。家畜飼料や様々な食品の原料となるトウモロコシや大豆は、生産量の90%以上が遺伝子組み換え品種に切り替わっている。食品業界の推定では、流通している食品の約80%には、何らかの形で遺伝子組み換え原料が使われている。

米国は同時に、遺伝子組み換え業界にとって天国でもある。日本やEU(欧州連合)などと違い、遺伝子組み換え原料を使っていても、メーカーはそうであることを消費者に知らせる法的義務がないためだ。表示義務化を求める消費者の声は根強いものの、義務化に反対する食品業界のロビー活動で、法制化の動きはこれまで、ことごとく葬り去られてきた。 

バーモント州が全米初の表示規制


ところが、この遺伝子組み換え大国・天国に今、大きな地殻変動が起きている。ハーシーやネスレなど大手食品メーカーの脱・遺伝子組み換えの動きに加え、7月1日には、米国では初めてとなる遺伝子組み換え食品の表示を義務付ける法律が、東部バーモント州で施行になる。

同法は、州内で販売されるすべての食品に適用。加工食品は原則、全重量に占める遺伝子組み換え原料の割合が0.9%を上回る場合、「遺伝子組み換え技術を使って製造されています」「一部、遺伝子組み換え技術を使って製造されています」などとパッケージに表示しなければならない。どちらの表示にするかは、遺伝子組み換え原料の含有比率による。違反業者には、1ブランドにつき1日当たり最高1000ドルの罰金が科せられる。

バーモント州の新法施行が迫る中、これまで表示に消極的だった大手食品メーカーは、手のひらを返すように表示に積極姿勢に転じている。

ゼネラル・ミルズは、施行日を待たずに、同社が米国内で販売するすべての商品に遺伝子組み換え原料使用の有無を明記し始めた。同社のホームページ上でもすでに同様の情報を掲載。キャンベルスープやケロッグ、マーズなど他の大手食品メーカーも、遺伝子組み換え原料使用の有無を表示する方針を相次いで明らかにしている。

大手メーカーには、いずれ同様の法律が他州でも施行になるから、早めに手を打っておいた方が他社との競争上も有利との読みがある。実際、報道によると、全米50州中、30以上の州が現在、同様の法律の制定を検討。11月の大統領選挙と同時に行われる住民投票で、遺伝子組み換え表示の可否を問う州もある。

遺伝子組み換えをめぐる地殻変動の原因は、「安全な食べ物を食べたい」「自分が口にする食品が、どこでどうやって作られているのか知りたい」と願う消費者が、かつてなく増えていることだ。

消費者の4人に3人が支持


米世論調査会社ハリスポールが5月25日に発表した最新の世論調査によると、米国の成人の75%が、遺伝子組み換え食品の表示義務化を支持。また、調査会社ニールセンによると、「遺伝子組み換え原料不使用」と自主表示した食品の売上高は、4月30日までの1年間で212億ドルに達し、この4年間で64%も増えた。遺伝子組み換え原料の使用が認められていない有機食品の売上高も、2015年は前年比で11%伸び、過去最高の397億ドルに達した。

遺伝子組み換え食品の安全性に対する消費者の懸念を払しょくするかのように、権威ある米国科学アカデミーは5月17日、遺伝子組み換え作物は人や動物が食べても安全だとする内容の報告書を発表した。政府の食品医薬品局(FDA)も、遺伝子組み換え食品の安全性に問題はないと言い続けている。

しかし、米国では、専門家や政府の見解を鵜のみにする消費者は多くない。ハリスポールの調査で、消費者の58%が「遺伝子組み換え食品は、長期にわたる研究がないため、人体への影響は未知数」と考えるなど、消費者の間では専門家も予想できない“想定外”の影響に対する懸念が根強い。

遺伝子組み換え食品がかりに安全だとしても、「自分が食べる食品がどんな原料でどうやって作られているのか知りたいから、表示義務は必要」と考える消費者も多い。バーモント州の法律制定を後押しした市民運動が「Right to Know」(知る権利)を合言葉にしたのは、象徴的だ。

非遺伝子組み換え食品に対する需要があまりにも急速に伸びているため、原料が不足する事態も起きている。菓子メーカーは遺伝子組み換え原料を使わない製品を作ろうにも、サトウキビ由来の砂糖が不足しているため、政府に対し砂糖の輸入量拡大を要請しているという。

日本の表示「ガラパゴス化」へ


遺伝子組み換え大国・米国の異変は、多くの遺伝子組み換え穀物や食品を米国から輸入している日本にも影響を及ぼしそうだ。

現在、日本で表示義務の対象となっているのは、原則、遺伝子組み換え原料の含有比率が5%以上の場合に限られている。しかも抜け穴が多い。これに対しバーモント州のルールは、0.9%以上と、日本と大きな開きがある。バーモント州のルールは他州のモデルになるとみられており、表示を義務付ける法律が各州で施行になった場合、「0.9%以上」が基準になる可能性が高い。EUも「0.9%以上」だ。このままだと、「5%以上」という日本の表示ルールは、世界の中で「ガラパゴス化」する恐れがある。

今後は、これまでパッケージに遺伝子組み換えの情報が何も記載されていなかった米国からの輸入食品が、いきなり「遺伝子組み換え食品」に変わる可能性もある。輸入業者はどう対応するのだろうか。また、消費者は何を感じ、どう行動するだろうか。

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