訪れた日本モンサントの隔離圃場。 |
モンサントによれば、日本国内には現在、民間企業や大学、農林水産省系の研究機関が所有する隔離圃場が全部で約20か所あり、そのうち一般公開しているのは2、3か所。その1つが、ここ茨城県内にあるモンサントの圃場というわけだ。
この隔離圃場を訪れたのは、夏の暑い真っ盛り。気温は35度前後に達し、日向に立っているだけで、玉の汗が噴き出してくる。まさに茹だるような暑さだった。
午後2時ごろ現地に到着。用意された長靴に履き替え、麦わら帽子をかぶり、モンサントの担当者の後を付いて、圃場内に入る。圃場の面積は約7,800㎡。サッカーグランドよりやや広いぐらいの大きさだ。その一画に見学用の畑があり、大豆とトウモロコシが植えられていた。
左手前が除草剤耐性GM大豆。右奥のNon-GM大豆は除草剤の影響で完全に枯れてしまっている。 |
3つの区画の違いは何か。まず、左側と真ん中の区画に植えられているのは、強力な除草剤を撒いても平気な、いわゆる除草剤耐性GM大豆である。これに対し右側の区画の大豆は、GM技術を使っていない普通の大豆、いわゆるNon-GM大豆だ。そして、真ん中と右側の区画には除草剤が撒かれていた。その結果、除草剤を撒いていない左側の区画には雑草がはびこり、右側の区画のNon-GM大豆は除草剤の影響で枯れてしまったというわけだ。GM大豆のメリットを存分にアピールするための手の込んだ演出だ。
次にトウモロコシ畑に目をやる。こちらは左右2つの区画に分かれていた。遠目には両区画とも同じに見えるが、近づいて茎や実を手に取ってみると、違いは明らかだった。
右側の区画のトウモロコシの茎を割いて中を見てみると、トウモロコシの天敵であるアワノメイガの幼虫が巣食っていた。実の薄皮を剥いでみたら、先のほうからかなりの部分が芯まで食われていた。一方、左側の区画のトウモロコシには何の問題もみられなかった。
Non-GMトウモロコシの茎や実は、アワノメイガの幼虫に食い荒らされていた。 |
私はこれまで、GM問題を折に触れて取材してきたが、実際にGM作物を見るのは初めてだった。その意味では、隔離圃場内の滞在時間は1時間にも満たなかったが、じつに印象深い体験だった。百聞は一見に如かず、である。
日本モンサントはこの隔離圃場の見学会を、10年ぐらい前から、毎年20~30回、夏場に開いている。うち1回はメディア向けで、私が参加したのもメディア向けの見学会だった。メディア向けも一般向けも見学内容は基本的に同じだが、メディア向けを分けているのは、記者に質問の機会を十分に与える配慮からだという。
モンサントがこうした地道なPR活動を長年続けている最大の理由は、GM作物のイメージアップにある。
世界的に見れば、GM作物の生産量は急速に増えている。大豆やトウモロコシ、綿、ナタネなどを合わせた世界のGM作物の栽培面積は、2013年時点で1億7,500万㌶に達した。これは日本の国土の約4.6倍に当たる広さだ。GM市場のさらなる拡大を目指す世界のバイオテクノロジー業界は、「GM食品は食べても安全」「GM技術は食糧問題を解決する」などと、GM作物の安全性や素晴らしさを繰り返し訴え続けている。
にもかかわらず、消費者の間には依然、GM食品の安全性に対する懸念が根強く、実際、GM食品を避ける消費者も多い。納豆や味噌などのメーカーが、パッケージの原材料の欄に「遺伝子組み換えではない」とわざわざ断り書きをしているのは、GM食品を嫌う消費者がいかに多いかを示す一例だ。
左側が害虫にやられたNon-GMトウモロコシの実。右がGMトウモロコシの実。 |
そうした消費者が抱く不安やマイナスイメージをどうすれば払しょくできるか。そこでモンサントが考えたのが、GM作物栽培の現場を実際に見てもらうということだった。隔離圃場の案内役を務めたモンサントの担当者は、「GMについて知ってもらう機会を作るのが見学会の目的」と話し、「圃場見学したことで、GM作物に対するネガティブな考えが変わった人もいる」と効果を強調する。
ただ、このモンサントの試みには限界があるのも確かだ。圃場見学からは、生産効率を向上させるGM技術の効果は実感できるが、では「GM食品は食べても安全なのか」という消費者にとって最も関心のある重要な問題への答えは得ることはできないからだ。むしろ見学者の中には、GMトウモロコシの強力な殺虫力を目の当たりにして、逆により不安になったという人もいるのではないだろうか。GM問題の安全性をめぐっては専門家の間でも見解が分かれており、消費者が不安を抱く原因となっている。結局、この安全性の問題に対し消費者が納得するような答えが見つからない限り、バイオテクノロジー業界と消費者との戦いは延々と続くのではないか。隔離圃場のGM作物を見つめながら、そんな思いを抱いた。
では果たして、専門家の間でも意見が分かれるGM食品の安全性の問題に対し、多くの消費者が納得するような答えはあるのだろうか。私はひとつだけあると考えている。それについては、次回以降、述べてみたい。
© Copyright Hijiri Inose
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