2016年4月29日金曜日

日本の若者が陥る“大麻の罠”

 スノーボードの未成年男子選手2人が、米国遠征中に現地で大麻を吸ったとして、全日本スキー連盟から、無期限の会員・競技者登録の停止、連盟強化指定取り消しなどの厳しい処分を受ける事件があった。

 実は、米国ではここ数年、各州で大麻合法化の動きが急速に進んでおり、誰でも簡単に大麻を吸える環境が出来つつある。若者を含め、米国に住んだり旅行したりする日本人は多い。軽い気持ちで手を出したり、現地の事情をよく知らなかったりすると、誰でも今回の事件のような“大麻の罠”に陥る可能性は十分にある。

 今回の事件の舞台となったコロラド州は、2014年、全米で初めて、娯楽目的での大麻の使用が解禁された。大麻には薬理作用があるため、医療目的ではそれ以前からも多くの州で使われていた。しかし、大麻をタバコや酒と同様の嗜好品扱いにしたのは、同州が初めて。米国内でも大きなニュースになった。

 その後、ワシントン、オレゴン、アラスカの各州と首都ワシントンDCでも、次々と娯楽目的の使用が解禁。今年11月には、大統領選挙に合わせ、カリフォルニアなど複数の州で、大麻合法化の是非を問う住民投票が一斉に実施される見通しだ。

 大麻解禁の動きを受けてニューヨーク・タイムズ紙とCBSテレビが実施した共同世論調査によれば、米国民の51%が大麻合法化を支持。1979年の同様の調査では、合法化支持は27%だった。世論が合法化に大きく傾いていることがわかる。

 一方、米連邦法は、大麻の所持や使用を明確に禁止している。ただ、米政府は少なくとも現時点では、各州の大麻合法化の動きに介入しない方針を表明し、事実上、容認する姿勢をとっている。

オバマ大統領も経験者
 
 なぜ米国で大麻合法化の動きが広がっているのか。
 第一の理由は、現状追認だ。米国では、ヒッピー・ムーブメントが起きた1960年代以降、若者の間に大麻の使用が広がった。それが今日まで、若者の“文化”として定着し、受け継がれているというのが実態だ。

 日本でも高校を卒業して親元を離れ、親の監視の目がなくなると、未成年なのに興味本位で酒やタバコをやり始める若者は多い。米国の若者が大麻を吸うのも、感覚としてはそれに近い。筆者も、30年ほど前、米国の大学に留学した経験があるが、その時、学生寮では毎週末、誰かの部屋でマリファナ(大麻)パーティーが開かれていた。プロ野球のスタジアムで開かれた有名歌手のコンサートを見に行った時には、大麻のにおいが充満し、びっくりした記憶がある。

 オバマ大統領も、若いころに大麻を吸った経験があると告白しているが、特に問題にされなかった。

 コカインやタバコなどに比べて中毒性や有害性、社会への迷惑度が低いと言われていることも、合法化の背景だ。多くの人の命を奪う銃犯罪や飲酒運転などに比べれば、大麻がらみの事件がもたらす影響は取るに足らないのに、それを取り締まるために多くの警察官を動員するのは、予算の無駄遣いとの指摘は多い。政府のカネの無駄遣いに厳しい米国的な発想だ。

 加えて、大麻所持で検挙されるのが常に黒人に偏っていることから、大麻を禁じる法律は人種差別的だという批判も、合法化を後押ししている。これも、人種差別問題に敏感な米国ならではの事情と言える。

 とはいえ、米国内でも合法化に反対する声は少なくない。11月に住民投票を実施するメイン州のポール・レページ知事は、大麻はコカインなどより危険な薬物に手を染めるきっかけになるとして、住民投票の実施を批判している。

危険な大麻スイーツ

 合法化といっても、実際には多くの条件が付いており、それらに違反すれば、逮捕される可能性もある。例えば、コロラド州は、大麻を吸えるのは21歳以上、携帯できるのは1オンス(約28グラム)まで、公共の場での使用は禁止、など細かい禁止事項を設けている。また、大麻を吸った後の車の運転は、飲酒運転と同様に厳しく罰せられる。こうした現地のルールをよく知らない外国人は、結果的に法を犯すリスクが高い。

 コロラド州では、大麻解禁後、想定外の深刻な問題も起きている。大麻の合法的な販売が可能になった結果、大麻を生地に練り込んだチョコレートやキャンディー、クッキーなど、様々な「大麻スイーツ」が登場。これらを子どもたちが誤って食べ、病院に担ぎ込まれる事故が急増しているという。州政府の調査によると、昨年1年間で中毒事故管理センターに寄せられた大麻がらみの相談件数は227件にのぼり、2006年の44件と比べて5倍以上増えた。このため州議会は、子どもが口に入れそうな動物や果物などの形をした大麻スイーツを禁止するため、法改正に動き出している。

 米国で日本人が大麻の誘惑の罠にはまるのは、主に、今回の事件のように若者同士のパーティーの場であったり、学生寮などで共同生活したりする場合だ。日本ではできない経験だから関心は否応なく高まるし、異国の地で友達のように仲良くされれば、うれしくもなる。それでつい出来心から大麻を吸ったとしても、不思議ではない。社会人経験のない二十歳前後の若者なら、なおさらだ。しかし、それがどんな結果を招くことになるのか、手を出す前に、想像力を働かせながら十分に考えてみることが必要だろう。

2016年4月28日木曜日

シェイクシャックが「ホルモン剤不使用」にこだわる理由

「ニューヨークのベストバーガー」の称号を引っさげ、昨年11月、華々しく日本デビューを果たした米ハンバーガーチェーンのシェイクシャック。東京の明治神宮外苑内に開いた1号店に続き、2号店が今月15日、東京のJR山手線恵比寿駅の駅ビル内にオープンした。

平日午後、恵比寿の2号店に立ち寄ると、ランチタイムはとっくに過ぎているのに、注文客の列は店外にまであふれ、最後尾で立て札を持っていた警備員に尋ねたら、最大40分待ち。店内はほぼ満席で、女性客やビジネスマン風の若い男性客などで賑わっていた。

人気の理由は、味やボリューム感、おしゃれなイメージにあるようだが、シェイクシャック側が強調するのは、使用する食材の安心・安全へのこだわりだ。
 
シェイクシャックのメニューボード
メニューには、「ホルモン剤を一切使用していないアンガスビーフ100%」「ホルモン剤や抗生剤を一切使用していないベーコン」「糖分は砂糖のみを使用し、コーンシロップなどは使用していません」といった、安心・安全を強調する説明が並ぶ。

飲み物も、有機りんごジュースや、有機ワインで有名なカリフォルニア州ナパバレーのワイナリーに作らせたワインをメニューに加えるなど、一工夫。さらには犬用のクッキーにも着色料を一切使わないなど、なかなかの手の込みようだ。

安心・安全なものを消費者に提供するのは、当然と言えば当然。だが、ここまで安心・安全にこだわり、それをアピールするファストフード店は珍しい。シェイクシャックはなぜ、そこまでやるのか。

実は、シェイクシャックの地元米国では今、消費者の間で、食の安心・安全への関心が急速に高まっている。特に関心が高いのが、遺伝子組み換え、抗生物質(抗生剤)、成長ホルモン剤(ホルモン剤)、人工添加物の問題。また、家畜が倫理的に扱われているかどうかといった動物福祉も、消費者が食品や店を選ぶ際の判断材料になっている。

こうした消費者意識の変化をいち早くとらえて急成長した新興ファストフードチェーンの一つが、シェイクシャックだ。日本でも食材の安心・安全にこだわるのは、それがシェイクシャックの成長の原動力となってきたからである。

では、シェイクシャックが使用しないと決めている成長ホルモン剤や抗生物質は、なぜ安心できないのか。

成長ホルモン剤には家畜の成長を早める効果があり、米国では多くの畜産農家が日常的に使用している。家畜が早く成長すれば、それだけ早く出荷でき、餌代の節約にもなるからだ。乳牛に成長ホルモン剤を与えると、搾乳量が10%以上増えるため、乳牛にもふつうに使われている。
 
しかし、成長ホルモン剤の成分が残留した牛肉や牛乳を人が摂取すると、子どもの成長に異常が生じたり、がんを発症したりする可能性が以前から指摘されてきた。女の子の初潮年齢の早まりは、牛肉や牛乳に残留する成長ホルモン剤の影響ではないかとも言われている。

このため、EU(欧州連合)は、域内で飼育する牛への成長ホルモン剤の使用を認めておらず、成長ホルモン剤を使用した牛肉の輸入も禁止している。日本は、国内で飼育されている牛には、成長ホルモン剤は使われていないが、輸入牛肉に関しては、ホルモン剤の残留量が国の基準値以下なら、輸入を認めている。つまり、国内のスーパーで売られている米国産牛肉や外食で口にする米国産牛肉は、成長ホルモン剤入りの可能性が高い。

抗生物質も、人への影響が懸念されている。家畜に抗生物質を使うのは、病気を治療するためだけではなく、病気の予防や、ホルモン剤同様、成長促進の目的がある。抗生物質の最大の問題は、過剰に投与すると、その抗生物質に耐性を備えた耐性菌が体内に生まれ、同じ抗生物質が二度と効かなくなること。耐性菌に汚染された食肉を人が食べたり触れたりすると、家畜の耐性菌が人に感染し、その人が病気になった時に抗生物質が効かない可能性が出てくる。そうなると、治療が不可能になり、軽い病気でも死亡する可能性が高まる。

抗生物質の人への影響を危惧したEUは、2006年、成長促進を目的とした家畜への抗生物質の使用を禁止した。一方、米国はこれまで、家畜への抗生物質の使用は事実上野放しだったが、オバマ大統領は2014年、抗生物質の使用削減に動き出している。日本は、成長促進を目的とした抗生物質の使用は、飼料安全法に基づいて一定の規制をかけているが、使用そのものは禁止していない。
 
米国では、シェイクシャックなどの成功に刺激を受け、大手ファストフードチェーンや大手食品メーカーの間で、消費者が安心できる食材に切り替える動きが急速に広がっている。例えば、マクドナルドは昨年、発がん性の疑いが指摘されている人工ホルモン剤(rbST)を投与した牛のミルクを、米国内店舗のメニューから外すと発表。同時に、鶏肉に関しても、人の病気の治療に使われる抗生物質と同種類の抗生物質を投与した鶏の肉は、今後使わない方針を公表している。

食の安心・安全を追求し、米国のファストフード業界に変革をもたらしたシェイクシャック。果たして、日本でも旋風を巻き起こすことができるだろうか。