2014年7月29日火曜日

大麻“自由化”に突き進む米社会(2)



オバマ大統領も大麻経験者
 急速に広がる大麻合法化の動き。この背景には何があるのか。

 簡単に言えば、「大麻はそれほど危険でも健康に害を及ぼすものでもない。だからそんなに目くじら立てることはないんじゃないのか」という、多くの米国人が共有する認識だ。

 たとえばこんな意見がある。

 「大麻がもたらす中毒や依存症は、アルコールやタバコがもたらす中毒や依存症に比べれば、たいした程度ではない。節度を持って吸うなら、健康な成人にとっておそらくなんの害もない」

 これは実は、米紙大手ニューヨーク・タイムズが7月下旬に紙面に載せた、同紙の論説委員会による提言記事の一部だ。同紙は7月下旬から、紙面を使い、大々的な大麻解禁キャンペーンを展開している。

 世論形成に大きな影響力も持つニューヨーク・タイムズが大麻支持を打ち出したとあって、それ自体が大きなニュースとなり、他紙や通信社、テレビがこぞってこの話題を取り上げた。

  世論の過半数が支持


一般世論も大麻解禁に大きく傾いている。ニューヨーク・タイムズとCBSテレビの共同世論調査によれば、大麻合法化を支持する米国民は過半数の51%。支持派は、1979年の27%から2倍近くに増えている。

 連邦法が現在の形で大麻を禁止したのは40年以上も前のこと。しかし、それによって大麻が米社会から消えたわけではなく、むしろ、禁酒法時代に多くの米国民が密かに飲酒を楽しんでいたように、大麻も吸われ続けてきた。

 私も20代前半のころ約1年間、英語の勉強のためにロサンゼルス近郊の大学に通っていたことがあるが、大学の学生寮ではよく、寮内のあちこちで大麻パーティーが開かれていた。私も何度か友達に呼ばれ、大麻を吸ったことがある。ロサンゼルス・エンゼルスの本拠地であるエンゼル・スタジアムで行われたマドンナのコンサートに行ったときには、スタンド中に大麻の匂いがプンプン立ち込め、驚いた記憶がある。

米国の若者にとって、大麻を吸うことは、あたかも大人になるための通過儀礼のようなものだ。オバマ大統領やブッシュ大統領、クリントン大統領も、若いころに大麻を吸ったことがあると告白している。

 いまでも、若者同士のパーティーや野外イベントなどで大麻が吸われていることは、想像に難くない。大麻合法化はいわば現状追認とも言える。

 人種問題も背景に


 大麻合法化の背景には、根深い人種問題もからんでいる。黒人社会や人権団体の間では、「大麻は白人だって吸っているのに、逮捕されるのはなぜか黒人ばかり」という強い不満が昔からある。

 実際、ニューヨーク・タイムズも、大麻を禁止する現行法の犠牲となっているのは「圧倒的に若い黒人男性」であり、その結果「(大麻の使用というたいしたことのない罪で)彼らの人生はめちゃくちゃにされ、犯罪者として一生すごすことになる」と指摘し、大麻禁止の弊害を指摘している。

 もちろん、大麻合法化を懸念する声も根強い。次期大統領選で共和党の有力候補のひとりとされるクリス・クリスティー・ニュージャージー州知事は、「大麻合法化は間違いだ」と大麻合法化に反対している。

 大麻が合法化されたコロラド州やワシントン州では、合法化と同時に、大麻を生地に練り込んだケーキやクッキーも発売になり、子どもの誤飲を懸念する声が出ている。

 

2014年7月28日月曜日

大麻“自由化”に突き進む米社会


 日本では、大物歌手の覚醒剤使用事件や危険ドラッグ使用による致死事件など、薬物の問題が世論をにぎわせているが、米社会はいま、国全体が大麻(マリファナ)合法化に向かって猛然と突き進んでいる。

 ワシントン州では7月上旬、州当局の認可を得た大麻販売店が続々オープン。コロラド州に続いて、成人の大麻吸引を認めた、全米で2番目の州になった。
 

 コロラド州が大麻を解禁したのは今年1月。4月には、州都デンバーで大麻合法化を祝う大規模なイベントが開かれ、報道によると、全米から数万人が参加した。

 米国では、医療目的での大麻の使用は、すでに20以上の州が合法化している。大麻には薬理作用があるためだ。しかし、ただ単に楽しむための吸引を法律で認めた州はこれまでなかった。

 今年11月には、ワシントン州の南隣のオレゴン州と、アラスカ州でも、大麻を合法化するかどうかを決める州民投票が実施される。米国の自治体では、有権者に関心の高い問題を、議会による立法化とは別に州民投票で決めることが珍しくない。コロラド州とワシントン州の大麻合法化も、2012年秋に実施された州民投票で賛成票が反対票を上回った結果だ。

 

 政府は容認姿勢


 一方、連邦法は依然、大麻の所持も使用も認めていない。しかし米政府は各州の大麻合法化の動きに介入しない方針を表明し、事実上、容認する姿勢をとっている。

 大麻“自由化”の動きはこれだけではない。医療目的に限っての大麻の使用を解禁する自治体も増えている。

 イリノイ州では7月、てんかんの患者に発作を和らげる目的で大麻を処方することを認めた州法が成立した。来年1月に施行される。法案に署名したパット・キン知事は、「新しい法律は多くの患者の苦しみを和らげるのに力を発揮することだろう」との声明文を出した。ニューヨーク州でも同じ7月に、医療目的の大麻使用を認める州法が成立した。

 さらには、大麻を原則禁止している自治体でも、少量の所持については大目に見ようという動きが出てきた。

 首都ワシントンD.C.は、従来、大麻所持に対しては最高6か月の禁固刑と1,000ドルの罰金を科していた。しかし法改正の結果、7月からは、18歳以上に限っては、所持量が28グラム以下なら、25ドルの罰金と大麻の没収だけになった。25ドルという金額は、駐車違反の罰金より少ない。

 米国の世論や報道を見ると、大麻“自由化”の動き今後も勢いを増しそうだ。では、この背景には何があるのか。

 次号に続く。