上海の食肉加工業者がマクドナルドなど大手ファストフードチェーンに賞味期限切れの肉を出荷していたことが大きなニュースとなり、中国産食品の安全性の問題が改めてクローズアップされている。しかし安全性が問われているのは、中国産だけではない。
ラクトパミンは主に、成長した豚のエサに混ぜて使われる化学物質で、肉の赤身を増やしたり、成長を早めたりする効果がある。米国では、1999年の使用解禁後、ラクトパミンを使う養豚業者が急増。現在は、全頭数の60~80%がラクトパミンを投与されていると推測されている。
生産者にとってはさまざまなメリットがあるラクトパミンだが、ラクトパミンを投与された豚やその肉を食べた人への影響が以前から強く懸念されてきた。
豚に関しては、ラクトパミンを与えられた豚が、異常行動を起こしたり、狂牛病にかかった牛のように足腰が立たなくなったりするなどの例が数多く報告されている。食品医薬品庁(FDA)はこれまでに、そうした報告を20万件以上受けているという。
人への影響では、詳細は不明だが、上海でラクトパミンを投与された豚の肉を食べた客が集団食中毒を起こしたという事件が、過去に報道されている。
EUは、ラクトパミンの安全性を独自に調査し、人の健康に影響を及ぼす可能性が否定しきれないとして、いわゆる「予防原則」に従い、ラクトパミンの使用を禁止している。一方、ロシアは昨年2月、ラクトパミン問題にからんで、米国からの肉製品の輸入を禁止する措置をとった。
現在、世界約160の国や地域が、ラクトパミンの使用を禁止したり制限したりしているという。日本は、国内での使用は認めていないが、輸入に関しては残留量が基準値以下であれば認めているということだ。
こうしたなか、McClatchyDCは、現在行われている米国とEUとの間の貿易交渉で、米政府がEUに対しラクトパミンの使用を認めるよう働きかけていると報じている。もちろん、この背景には、輸出拡大を狙う米食品業界の政府に対するロビー活動がある。
米政府の露骨な業界利益優先の経済外交には、米国内からも批判の声が上がっている。今年3月、米国の有力環境団体や消費者団体は共同で、米通商代表部のフロマン代表に対し、ラクトパミンの使用禁止と、ラクトパミンを使用した肉製品の輸出自粛を文書で申し入れた。
消費者の懸念やラクトパミンを敬遠する海外の動きを受け、ラクトパミン不使用をうたう業者も現れた。豚肉加工大手のスミスフィールド・フーズは、米国内にある同社の一部の工場で、ラクトパミンを使用していない豚肉の生産・出荷を始めたことを明らかにした。じつはスミスフィールドは昨年、中国企業に買収され現在は中国資本になっている。食の安心・安全で業界をリードする企業が中国系とは、なんとも皮肉な話だ。
今回McClatchyDCが焦点を当てたのはラクトパミンの話だが、米国の食肉業界ではそのほかにも、人への影響が懸念されている成長ホルモン剤や抗生物質の家畜への投与、塩素を使った肉の洗浄など、消費者が聞いたら驚いたり不安になったりするような行為が生産現場でごく普通に行われている。そうやって生産された食肉の一部は日本にも輸出され、スーパーの食肉コーナーに「お買い得品」として並ぶことになるのである。
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